創立1805年(江戸末期)老舗として、今年で200周年の堺刀司(和泉利器製作所)で取材を行いました。
職人というと「地の人」とイメージされる方が多いですが、じつは三重県出身なんです。榊原温泉の近くに住んでたんですが、家の側には川と山があって、夏場はよく魚やサワガニを取ったり素潜りしたり、山では野イチゴ狩りなんかしてました。食べ過ぎてお腹こわしたこともあったけどね(笑)あの時は自然が遊び場で、みんなの遊び相手が自然やったんで、自分で工夫して遊ぶことがおもしろかった時代ですね。今ではそういう遊びが少なくなりましたけど。
スポーツでは中学から続けてきたバレー部に所属してました。(セッターですよね?)そうです(笑)当時は9人制で、今でいうリベロとかなかったんで、みんなで白いボールに食らいついていきましたよ。それと、身長が伸びると信じ込んでたんですが、ご覧のとおりでダメでした(笑)成績は三重県大会でベスト8まで行きました。
大阪に友人が居たんですが、紹介をきっかけに現在の堺刀司(和泉利器)と出会いました。そこで包丁の「*すげる」ところを目の辺にして興味を持ちました。それが今の仕事への第1歩でしたね。
*研きあげた包丁に持ち手(ハンドルまたは柄)をつける仕事。
古来から包丁は食文化に欠かせないものとして、とても神秘的なものを感じます。それと、私だけではないと思いますが、包丁は母親を連想させるものとして、実は温かみのあるものなんですよ。毎朝、まな板をトントンと叩く音を聞けば「朝だ」と実感し、おいしい味噌汁とおかずをいただく。家庭の食卓だけではないですが、食べるという文化に対して人を明るくするひとつとして、包丁は存在するんだと思っています。だから、安全なものが必要なんですよね。すぐに柄が抜けたりするものでは話しになりませんし、料理人であれば、握りひとつでさばいた食材の味が変わる。じつは、うちの社長が昔に料亭でお造りの切り口を見て、料理人の利き手を当てたという話しを聞きました。それらを満足していただくためには、刃と柄の部分がしっかりと一体化していないと包丁としての良さがでません。切れ味だけではないってことです。握り味なんて聞いたことないですけどね(笑)
音ですね。鍛冶職人が焼きを入れて作った刃を差し込んでいくわけですが、木で出来ている以上、どこまで差し込んだかは目ではわかりませんので、長年の耳を頼りに音で聞き分けて差し込んでいきます。工程としては、焼いた中子で木を焦がすことによって差し込みを固くしていきますが、木づちで柄の底を叩いて回しながら中心に差し込んでいきます。その時に叩いた音の変化で判断していくんですよ。もし差し込みが甘ければ叩いた反動で刃の部分だけが飛んでいくんで、自然と集中しますね。
包丁は使い方ひとつで良くも悪くもなりますが、いろんな事件を耳にする度に心が痛みます。じつはある事件がきっかけで、地元デパート内から包丁売り場が姿を消したんですが、モノを無くすということではなく、そのモノの使い方を学ぶ(知る)ことが大事だということを広めるために、私達の仕事では食育への取り組みが急務なのかもしれません。本来、包丁とはなんのために使うのか?ってことを問うていきたいですね。そして、包丁ひとつでみなさんに幸せを感じていただけるということを。
個人的に料理が好きなんですが、包丁に対する考え方が変わりました。大変興味深いお話をありがとうございました!
刃と持ちの部分を焦がして固定させるために焼きを入れる。
差し込みが終わった刃に刻印を入れる。
人気料理番組「料理の鉄人」や「ビストロSMAP」へ提供しているメンバーの包丁が飾られている。
番組で使用したばかりのそば切り包丁。
堺刀司(さかいとうじ)
株式会社和泉利器製作所
本社営業所:
堺市堺区九間町東1-1-5
TEL 072.238.0888
※掲載情報は、取材時点のものです。現在の情報については、直接お問い合わせ下さい。
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