世界が注目する「堺の刃物」の魅力

堺は日本における刃物の六大産地のひとつ。特に、職人が一本ずつ手作りで仕上げる「堺打刃物」で名高く、プロの料理人用庖丁では国内シェアのほとんどを誇るほど。その極上の切れ味は、空前の和食ブームとも相まって、今世界の料理人たちからも熱い注目を浴びています。この堺刃物が持つ高い品質の秘密とは? 実際に堺に足を運んで購入する魅力とは? 誰もが気になる堺の刃物の基本をご紹介します。

 


 

【歴史】〜ルーツは古代に遡り、近世に一大産業として発展〜

600年の歴史を持つ堺の刃物生産は、15世紀に刀工を祖とする庖丁鍛冶集団が、加賀国(現在の石川県)から堺へ移住したことにはじまります。しかし、その礎は遥か古代の5世紀、日本最大の仁徳天皇陵古墳の築造によって培われていました。鍬や鋤などの鉄製道具をつくる職人集団が堺に定住し、鍛冶技術が発達したと考えられています。

生産拡大の契機となったのは16世紀。ポルトガルから日本に鉄砲とタバコが伝来すると、堺では庖丁鍛冶技術を生かした鉄砲とタバコの葉を刻むタバコ庖丁の製造が盛んになりました。特に鋭い切れ味のタバコ庖丁は、江戸幕府に「堺極」の極印を入れて販売することを認められ隆盛を極めました。その伝統は現在まで脈々と受継がれ、本職の料理人用庖丁では、国内シェアのほとんどを誇り続けています。

日本の名産品を紹介する18世紀の本でも、堺は優れた庖丁産地として紹介されています。『日本山海名物図会』(1797年版/平瀬徹斎著、長谷川光信挿画)より。
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【特徴】〜堺の職人技と日本の食文化が生み出した「堺打刃物」〜

刃物には、職人の手仕事でつくられる「打刃物」と、金型で打ち抜いて成型する機械生産があります。堺が得意としてきたのは前者の打刃物。素材となる軟鉄や鋼を真っ赤に熱し、金槌などで叩き延ばして鍛える“鍛造(たんぞう)”という技法が用いられています。叩くことで金属内部の組織を密にして強度と粘り強さを高め、極上の切れ味と耐久性、見事な美しさを生み出すものです。

打刃物の庖丁は「片刃構造」が特徴です。両刃が主流の世界でも類を見ない形で、刃は鋭角で切れ味はスパッと鮮やか。食材の断面も美しくなめらかです。刺身などのやわらかな食材でも繊維や細胞膜を壊すことなく切れるので、素材のうまみを中に閉じ込めることができ、食感を損なうこともありません。さらに、切った食材が刃から離れやすい点も機能的です。日本は、肉よりも魚や野菜を中心とする食文化が発展した国。新鮮な食材の風味をそのまま味わうため、こうした独自の形が発達したのでしょう。堺打刃物は現在、経済産業大臣指定の「伝統的工芸品」に指定されています。

 

 

堺製の片刃庖丁。用途によって形が異なるのも特徴です。
左から柳刃庖丁(刺身用)、薄刃庖丁(野菜用)、出刃庖丁(魚をさばく・肉を切る)。
 
左:片刃庖丁の断面。軟鉄と鋼の2つの素材が接合されており、その境目もわかります。
右:プロの料理人は、鋼のみを材料とする「本焼(ほんやき)庖丁」も使用します。
写真は、夜の富士山に登る月を刃文(はもん:刃に現れる波模様)で表現した本焼。

 

左:打刃物の刃をこまめに研いでメンテナンスすることで、常に上質な切れ味を保つことができます。
錆びやすいので、使用後すぐに水気を拭き取るのも大切。
右:こまめに研いで約10年使い続け、元の約半分のサイズになった庖丁。刃がなくなるまで半永久的に使い続けることができます。

 

 


 

庖丁の製造工程

打刃物の技でつくられる庖丁は、火と鉄と水が生み出す工芸品。その工程は、大きく「鍛造」「研ぎ(刃付け)」「柄付け」の3つに分かれます。分業体制によって各工程をそれぞれのプロが手がけているのも特徴。各職人が技術を高度に磨き上げることで、他産地の追随を許さない最高品質を維持しています。

 

鍛造工程

 

鍛冶職人の手で材料となる鉄や鋼を「鍛造」する工程です。鍛造とは「金属を鍛えてつくること」。

燃え盛る炎の中で材料を真っ赤に熱し、金槌や動力ハンマーで叩き延ばしていきます。

刃の強度としなやかさを共存させるため、硬い「刃金(鋼)」と軟らかい「地金(軟鉄)」の2つを接着してつくるのが基本です。

 

 

▼主な工程(一部抜粋)

 

◎刃金付け

 

 

約1000℃の炉の中で熱した地金(軟鉄)に刃金(鋼)を重ねて打ち合わせることで、2つの金属を接着させます。

何度も火入れをして打ち延ばしながら、庖丁の原型をつくります。

 

 

◎先付け・中子とり

 

 

動力ハンマーで叩きながら、地金と刃金をさらになじませます。

庖丁の形に整えた後、再び炉で熱し、叩き延ばしながら柄に挿す部分(中子・なかご)を形づくります。

 

 

◎焼き入れ・焼き戻し

 

 

再び加熱した炉に庖丁を入れ、一気に水につけて急冷することで刃金の硬度と切れ味を高めます(焼き入れ)。

さらに、一旦冷ました庖丁を再び炉に入れ熱することで、刃金に粘りを出し、欠けにくい刃にします(焼き戻し)。

どちらも温度管理が重要で、職人は炎の色で最適なタイミングを見極めます。写真右は鍛造工程の完成形です。

 


 

研ぎ(刃付け)工程

 

研ぎ職人による刃研ぎや研磨の工程を経て、庖丁に鋭利な刃を付けていきます。この工程を「刃付け」ともいいます。

まずは、刃の表面を荒い砥石で研ぎ、刃先の厚みを落とし、形を整える「荒研ぎ」を行います。

続けて平らな面を研ぎ進めた後、刃先を研ぎ上げる「本研ぎ」、裏面を薄く研ぎあげる「裏研ぎ」へと続きます。

目の細かい砥石で仕上げ、錆び止めの油を塗った後、柄付け職人へと送られます。

 

 

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最高の切れ味を生むには、歪みのない真っ直ぐな刃が必要。

各工程で歪みが出ないよう、細かな微調整を行いながら作業を進めていきます。

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柄付け工程

 

鋭く研ぎ上げられた庖丁に、柄を付ける最終工程です。柄の中や庖丁の中子を十分に熱した後、中子を柄に差し込みます。

柄の底を木槌でトントンと叩くと刃が自然に柄の中に入っていきます。

刃を歪みなく垂直に差し、重心のバランスを整えるのが職人の腕の見せ所。

 

 

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何度も確認しながら調整を行った後、最後に金槌と鏨(たがね)で、ブランド名を彫り込めば、堺庖丁の完成です。

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刃物の産地・堺を訪ねたい3つの理由

 

今や国内外にその名が響き渡る、堺メイドの刃物。有名であるがゆえに、堺以外の土地でも購入できますが、産地・堺でしか出合えない魅力やメリットもたくさんあります。例えば、職人さんと直接ふれあえたり、歴史や文化をより深く知ることができたり……。堺を直接訪ねたくなる3つの理由をご紹介します。

 

 


 

理由①
見る・買う・学ぶ、堺刃物ミュージアム「CUT」があります。

海外のお客様からも注目を集める堺刃物のすべてがわかる「CUT」。堺の刃物の歴史や製造方法、つくる道具などを実物、模型、イラストを用いてわかりやすく展示しています。また、見て、学んだ後は、1階の「TAKUMI SHOP[包丁・砥石]」で家庭用からプロの料理人使用の包丁まで種類豊富に揃えています。職人さんの銘が入っている包丁など種類の多さではどこにも負けません。英語が堪能なスタッフも在籍しているため、海外からの訪問も安心です。目的や用途に合わせて「最高の1本」を選ぶサポートをしてくれるのはもちろん、メンテナンス方法についても丁寧にアドバイスしてくれます。

 

包丁の歴史や種類などを説明しているのは、フランス出身で、堺で鍛冶師として修行経験をもつエリック・シュバリエさん。
日・仏・英語が堪能で、刃物の知識も豊富です。

 

堺刃物ミュージアム「CUT」は2階にあります。QRコードを読み込めば、英語、中国語、韓国語で各説明を表示。

模型を使って、わかりやすく説明。種類の多さに驚きます。

鍛冶屋さんが実際に使っていたベルトハンマーを展示。

お買い物は1階のTAKUMI SHOPで!
包丁をメンテナンスする砥石も販売しています。

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海外需要開拓・コーディネーター
エリック・シュヴァリエさん

ご希望の用途や予算に応じて、20以上の工房の品から最適な一本をおすすめします。職人の手で作られた堺打刃物は切れ味も抜群。丁寧にメンテナンスすれば一生使い続けることも可能です。お気軽にご相談ください。

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理由②
街の中には、刃物店や工房がたくさん。
庖丁づくり体験ができるスポットも


長い歴史を持つ堺の刃物づくりは、「旧市街」と呼ばれる古くからの街の中心部(堺市堺区)で発展してきました。今も界隈には、刃物工房や問屋がたくさん。なかには小売店舗を併設し、観光客を受け入れているところも多数あり、購入した庖丁に自分の名前を彫り入れてくれるお店も。他にも資料館や工房の見学、刃物づくりや庖丁研ぎ体験を提供している場所もあり、見所はつきません。いずれも工房を直接訪ねるため、職人やスタッフとふれあえるのもうれしいポイントです。彼らのこだわりや想いを直に聞くことができるので、購入した刃物への愛着もさらに増すことでしょう。

 

 


 

理由③
世界のガーデナーも惚れ込んだ「和鋏」の工房もあります

 

堺打刃物の技術で作られるのは庖丁だけではありません。植木職人や庭師が使う「和鋏(わばさみ)」もそのひとつで、堺には日本で唯一、鋏の伝統工芸士に指定されている平川康弘さんが営む鋏工房もあります。独特のカーブを描くプロペラ型の刃を2枚重ねる独自の鋏づくりは、繊細な調整作業を要するため、鍛造から刃付けまで約30の工程を一人でこなすのが特徴。事前予約をすれば工房見学も可能で、轟音と火花が飛び散る大迫力の鍛造作業を見られる日もあります。また、「フランスの薔薇ガーデナーも惚れ込んだ」という切れ味を実際に試すこともできます。

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協力:堺刃物商工業協同組合連合会

モデル:Niels Telman (Anela Model)

取材・文:山口紀子 / 撮影:山崎純敬、浜中悠樹

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